「九つの夢と九つの朝」の物語(二人の制作メモ)
それぞれの曲にはそれぞれの思い入れがあって、そしてエピソードがあるのでした、、、、。
このアルバムは2005年11月から2007年4月にかけて及川禅と小西徹郎の二人が創造した音楽の物語である。
 
1、「I flowd」 作曲:及川禅 編曲:小西徹郎・及川禅     ギター:及川禅  トランペット、シンセサイザー:小西徹郎
*1981年に中古でエレハ(※1)のマイクロシンセを手に入れた。
以来、26年使っているが、今までに2度壊れた。
一番最近は、2005年の夏。江ノ島オッパーラで58分の曲「MANDALA SCAPES」を弾き終えた直後、壊れた。
この曲「I flowd」は、このエレハが修理から戻ってきた折に、サウンドチェックがてら録音したソロのサウンドメモのトラックだ。
このファイルを小西徹郎氏に送り、やりとりして完成した。
浮遊感を情感とサウンドで表現しようと、深夜に一人で弾いたトラック。(※2)
殆ど打ち合わせらしいことをしなかったのに、小西徹郎氏の繊細なアプローチのシンフォニアシンセが私の意にぴったりのサウンドを創り出しているのが不思議。 及川禅
(※1)エレクトロハーモニックス社 米国の電子楽器メーカー。 (※2)録音されたチャンネルの場所
*この美しい世界、この及川氏の美しく伸びやかな音世界にどう入り込んでゆくべきか、手元にある楽器は小物のパーカッション、
 ローランドのU220 そしてヤマハのウインドシンセ、そしてトランペット。私は思った、この世界に入り込んでゆくよりはこの世界に
 空間という飾りつけをしよう、そう思ったのだ。小物パーカッションで「空の周波数」を表現し、ウインドシンセで、「雲の周波数」を
 表現し、シンセサイザーでなだらかな山の角度、海の静けさの周波数を表現し、トランペットで「風の周波数」を表現した。
 そしてこの及川氏の作品、トラックそのものは地球。愛がある作品である。   小西徹郎
 
2、「Rise」 作曲:小西徹郎 編曲:小西徹郎・及川禅     ギター:及川禅  トランペット、シンセサイザー:小西徹郎
*人は皆、旅人。出会いはいつも必然。「世界先端音楽家集会」で出会った小西徹郎氏
数ヵ月後、音楽の出会いを果たすため私は湘南ラインに乗り彼の自宅スタジオへ向った。
眺めの良い窓のある部屋で、ワッシュバーン・ヌーノ(※3)を弾いた。
この曲は小西氏がこのレコーディングの為に準備した曲。
イントロが特徴のある変拍子で、入りにくかったが慣れると楽しい曲。
ギターシンセのフィルターの微妙なロールにこだわったので、少々時間がかかった。
小西徹郎氏は豆からのコーヒー入れてくれ私の緊張をほぐしてくれた。  及川禅
(※3)ワッシュバーン(米国のギターメーカー) ヌーノモデル(ヌーノ・ベッテンコート、エクストリームのギタリスト)
*この度のレコーディングのために制作した作品である。軽快に風にのって上昇してゆくイメージ。トランペットを2本重ねて
バッキングに徹する。このとき及川氏はギターパートを2つに分けて録音。ひとつは心地よい雷のようなギター
そしてもうひとつは暗雲の中にきらめくようなサウンド、全体のサウンドをあますことなく前にだしてゆく、そんな感じがした。
そう、この日は及川氏が遠いところからわざわざ埼玉の私の家までお越しいただいた日なのだ。少々緊張気味な私だったが
及川氏からいただいた珈琲豆、この香りで私も緊張が解けた。  小西徹郎
3、「The Lost Horizon」 作曲:小西徹郎 編曲:小西徹郎・及川禅    ギター:及川禅  フリューゲルホーン、シンセサイザー:小西徹郎
*小西氏のスタジオの窓から、朱に染まる夕景を見ながら弾いた曲。
すでに思い出になっているのが時の流れの凄いところだ。
この曲のギターソロは楽に弾けた。旋律のテイストが妙に自分のスタイルに似ているので違和感無く気持ち良かった。
小西氏は幅の広い作曲技法を持っているがこのポップ感覚も秀逸。 及川禅
*この作品は2005年「世界末端ミュージシャン会議」、私の10年ぶりくらいのライブで演奏した。パーフェクトなミニマリスムではないのだが
 奇数フレーズと偶数フレーズを織り交ぜながらフレーズ自体を少しづつ伸ばしてゆくという方法で作曲した。
メロディをつけたのはトラックが出来上がってからだった。
この作品はぜひ及川氏にギターを弾いていただきたいと思い、今までのアルバムの構想の中にはいれず
あたためてきた音楽である。  小西徹郎
 
 
4、「Hard Negotiation」 作曲:及川禅 編曲:小西徹郎・及川禅  ギター、シンセサイザー:及川禅  トランペット、シンセサイザー:小西徹郎
第一回うんこ映画祭(※4)出品作品で私の音楽を使用したウズマキ・マキオ監督から、新作の音楽を依頼された。
別れた前妻と共に現れた男と3人での談判シーン。
映像と切り離して小西氏とリメイクしたこの作品は、また違った音世界が構築され、音楽制作の面白さが味わえた。
私はジブリの映画音楽プロデューサーとして5年間、宮崎駿氏、久石譲氏と共に音楽制作の時間を過ごした。
実写の本編(※5)も制作し映像と音楽の関係を追及して思うのは、映像と音楽はひとつであり、別のものでは無いと感じる。
目と耳で感じながら生きている時間を過ごしている、人間の生き様そのものと思っている。
人生はまるで、それぞれの生き様のドキュメンタリー映画そのものかも知れない。
そしてそこにどんな音楽が流れているかは、その人自身しか知らない。  及川禅
(※4)第一回うんこ映画祭 2005年4月に新宿ロフトプラスワンで開催されたウンコがテーマのギャグ、SF、アニメなどオールジャンルの自主映画祭
(※5)本編 劇場公開映画のこと。企画から完成まで最低3年はかかる。
*この作品を聴いたときに、私にに何ができるかな?どのようにしたら音楽に入り込めるか?ということを考えていた。
I flowd」とは逆の考え方でアプローチしてみた。この作品で一番のポイントは「リフ」そして「構成」だった。
リフ自体が音楽の縦を切り取ったときにどう響くか?そしてリフの変化に合わせて構成、進行を変えてゆく、
その部分を主眼として取り組んだ作品である。及川氏の重くハードなギターがとても気持ちいい。  小西徹郎
 
5、「Dark side People」 作曲:小西徹郎 編曲:小西徹郎・及川禅   ギター:及川禅  フリューゲルホーン、シンセサイザー:小西徹郎
2005年10月1日世界末端ミュージシャン会議(第二回世界先端音楽家集会)で小西氏がソロで演奏した曲。
ライブで一度聴いているはずなのだが、録音時のモニターで聴くと世界観がまるで違うことに驚いた。
場所や時間という環境、そして思い込み、思い入れで音楽の持つ意味も変わる可能性があることを演奏しながら実感した。
小西氏と私の、感性や音に対するアプローチが立体的に異なっているのが解る。
しかしそれが調和するのが音楽宇宙の凄さだ。   及川禅
*この作品は94年の下北沢演劇祭での演劇作品のために制作した。日本語タイトルだと「「地下壕の住人たち」となる。
 94年は初めて演劇に携わった年、元々映画や演劇、ダンスなどとのコラボレーションを望んでいたので多くの時間を
かけて制作したのを覚えている。及川氏のアプローチはまさに地下壕にうずまく何かが表現されたフレーズ、演奏であった。
明と暗、静と動、真逆で背合わせなものは音の中で異なる光を発しながらも空気は澱まない。  小西徹郎
 
6、「Star Ship」 作曲:小西徹郎 編曲:小西徹郎・及川禅   ギター:及川禅  フリューゲルホーン、シンセサイザー:小西徹郎
*この曲のエンディングが不完全終止と言えるのかどうか不明だが、気が付くと約7時間ギターを弾いていた事になっていた。
小西氏はその間、何度もプレイバックの作業を付き合ってくれていたことにもなる。
時々ふっと消えると、たばこの匂いをさせてスタジオに戻って来ていたので、吸わない私に気遣ってくれていたのだろう。
ギターのフィルターのスイープにこだわって時間を使ってしまったが、その結果プレイに熱中できて気持ち良く弾けた。
曲の感情の盛り上がりに自分を同化させていく瞬間、そして曲の中に入り込んだ瞬間は演奏家だけが知るエクスタシーかも知れない。
こういうシチュエイションを創り出すことができたのも縁のなせる業かも知れません。 及川禅
*この作品は自分にとってハーモニーをどう捉えるか?という課題でもあった。自然でありながら、自然でありえない転調、
 進みっぱなしの中でどうやって終止させるか?このハーモニーの連続は実は即興でその場でシンセに打ち込んでいった。
ボイシングも同じく即興で打ち込んでいった。ハーモニー、音の移り変わりのハッとする感覚だけが私にとって必要だった。
その後及川氏のギターが入ったのだが、これがまた一番のツボの部分に素晴らしいフレーズが歌う。この出だしの及川氏の
ギターフレーズは忘れることができない。   小西徹郎
 
7、「A man who roasts bean」 作曲:及川禅 編曲:小西徹郎・及川禅  ギター、シンセサイザー:及川禅  フリューゲルホーン、シンセサイザー:小西徹郎 
*ウズマキ・マキオ監督作品「豆を挽く男」の劇伴(※6)の依頼があり制作した楽曲。
ベーシックトラックを創って聴いて見ると淡々とした感覚が好きになった。
映像を離れて音楽の持つストーリー性を発展させたいと思って、小西氏とファイルをやり取りして創った。
小西氏は映像を見ていないのだがフリューゲルホーンやシンセで独特の世界観を新たに付加した。
後半の女性のボイスや不思議な効果音はとてもシュールでおしゃれだ。  及川禅
(※6)劇映画伴奏音楽の業界用語。
*多くの楽器を用いて空間作りに力を注いだ作品である。及川氏のこのコーヒー豆のもつ香りのようなトラック、私はそれにカフェの
 空間を表現してみた。カウンターの後ろでカップを洗う音、サイフォンの音、湯気の吐息、静かに佇む換気扇のつぶやき、
 沸騰する水のぼこぼこ、ティースプーンのキスの声、カフェという空間には何気ないところにまでドラマは存在する。
 そんな空間を表現してみたいと思っていろんな音をいれてみたのだった。   小西徹郎
 
8、「Pray」(inori)  作曲:及川禅 編曲:小西徹郎・及川禅  ギター、:及川禅  フリューゲルホーン、シンセサイザー:小西徹郎 
2005年に各地で上演した、演奏と映像がライブでシンクロする作品「MANDALA SCAPES象景曼陀羅 」
この映像で流れる作詩をしている時に、祈りについて様々な考察と体験があった。この詩は超長文なのでここでは割愛する。
祈るように演奏する。いや演奏で祈るのだ。演奏が祈りなのだ。
深夜一人で録音した。シンプルなギターパートだけのトラックを小西氏に渡した。
あえてコメントはつけずに、、、、。結果は驚きのエンディングに、、、、、。  及川禅
*最初にこのトラックを聴いたときに感じたのはまさしく祈りの声であった。2005年7月30日に出会った及川氏の音楽、それから
 ソロギターワークス、私の中での原点がよみがえってきた。及川氏の音楽の根源は世界平和への祈りなのだ。
 私はそれを言葉ではなく音で、音楽で再認識したのである。私もあえてここではコメントをつけず。小西徹郎
 
9、「Angel」 作曲:及川禅 編曲:及川禅・小西徹郎  ギター、シンセサイザー:及川禅  フリューゲルホーン、シンセサイザー:小西徹郎 
*コンテンポラリーダンサー「池田真弓」女史に依頼され、作曲したダンス組曲。
上演時はギターの生演奏とベーシックトラックでのコンテンポラリーダンス公演(※7)となった。
テーマは夢を追い、禁を破って地上に降りた立った天使が、そこに見た世界のカオスと惨状を、そしてやがて昇天する様を、舞う気持ちになって作曲した。。
踊りと音楽のバックグラウンドにある物語を、砲声や鞭(ムチ)の音を使って旋律のある状況音楽にした。
上演当時のトラックに私のガットギターそして小西氏のホーンとシンセが新たにダビングされリメイクされている。
かなり繊細な作業を、時間をかけて何度もやり直している小西氏のこだわりが、サウンドの厚みとなって生まれ変わった。
わたしはこのダンス組曲がライブ上演だけで終わるのは偲び難く、なんとかCDにして残したい思いが強かった。
小西氏との出会いによってこの曲が完成し6年後にこうして形になったことをとても嬉しく思います。  及川禅
(※7)2001年6月に東北沢「現代ハイツHGギャラリー」で上演された。公演タイトル「ダンス・カフェ」 ダンサーは池田真弓、伊藤虹、石原ナオナ、ぱんち 音楽 及川禅
*この壮大な大組曲に出会ったとき私は打つ手がまったく見つからなかった。トラックをいただいてしばらく聴き続ける日々が続いた。
 テクニカルな部分よりも音楽と音楽との関連性、そして音と音の関連性、移り変わり、この部分で多くの思考をはべらせていた。
もちろん、テクニカルな部分ではミクロのレベルで取り組んだ。その中で発見した音楽としての深度は今となっては大きな財産である。
クリエイティブとは何なのか?言葉だけが先行してしまっているクリエイティブという言葉。この制作に携わることができたおかげで
これらのことが自分の中で明確になってきたのだ。
すべてにおいてギリギリのところまで最大限にもってくることができてよかったと思っている。小西徹郎


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左:小西徹郎 右:及川禅
Photo by :Hori

2007jun 横浜zaimにて
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「禅徹」